Q1 漢方ってホントに効くの?
漢方薬は科学的根拠が乏しいと思われがちですが、
いろいろな疾患の診療ガイドラインに掲載されるくらい効果はあります!
高齢者への有用性が示唆されている医療用漢方製剤
・抑肝散(よくかんさん)
認知症の陽性症状(興奮・妄想・幻覚など)があり、非薬物療法と認知症治療薬が効果不十分の時に使われる。
甘草含有製剤なので低カリウム血症には注意。肝機能障害を起こすことがある。
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
脳卒中患者・パーキンソン病患者において嚥下反射・咳反射が低下し、誤嚥性肺炎の既往がその恐れがあるときに使われる。
過敏症による発疹に注意
・大建中湯(だいけんちゅうとう)
腹部術後早期の腸管蠕動運動不良、脳卒中患者の慢性便秘で使われる。
間質性肺炎と肝障害には注意
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
慢性閉塞性肺疾患など、慢性or再発性炎症性疾患患者における炎症指標および栄養状態が改善しない場合に使われる。
甘草含有製剤なので低カリウム血症には注意
・麻子仁丸(ましにんがん)
慢性便秘、排便困難全般で使われる。緩やかに作用するので通常の高齢者でも下痢の恐れは低い。
日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」より一部抜粋。
本当によく使われるものだけを書きましたが、これ以外を使っている方もいると思います。
それくらい漢方も皆さんに使ってもらっています!
Q2 医師の処方意図が知りたい
原因不明のお腹の不調の方が来たら、西洋薬では整腸剤くらいしか選択肢がないですが、
漢方であれば、
お腹の冷えがない下痢⇒猪苓湯、
胃などの上部消化管の冷えがある⇒人参湯、
腸などの下部消化管の冷えがある⇒真武湯や大建中湯、
頭痛を伴う下痢⇒桂枝人参湯、
…
など今ある症状でいろな選択肢があるのが漢方です。
もちろん奥が深いので一般的な使い方でなくても、効果があるというので処方されるという難しさがありますが、考え方が分かりやすいものを症例ごとに解説させていただきます。
※併用薬・既往などのファクターはないものと考えてください
ケース① 認知症による暴言・易怒に抑肝散
日頃から神経質で、気に入らないことがあると時々周囲に怒鳴り散らすことがある80歳男性。
物忘れがひどくなったこともあり受診し、認知症、怒鳴り散らすのは、認知症の関連行動(BPSD)の陽性症状が現れていると診断され、抑肝散が処方されました。
上記でも記載しました、日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」にもあるように、認知症の陽性症状には有効なのでよく処方されます。
いらだちと便秘に効果があると言われています。
執拗性、易怒性、不機嫌などの症状に効果があると言われています。
ケース② 月経困難症の痛みに芍薬甘草湯を頓服処方
月経痛がひどく鎮痛薬が手放せない28歳女性。
器質的疾患のない機能性月経困難症と診断され、芍薬甘草湯が処方されました。
日本産科婦人科学会の「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2017」によれば、
「機能性月経困難症は、NSADsなどの鎮痛薬、ホルモン療法の他、漢方薬により効果的に治療できる可能性がある」、「芍薬甘草湯は月経痛が激しい場合の頓用で用いることができる」とされています。
20代後半は、ストレスにより自律神経が乱れやすいので、放置すれば血管が収縮したままとなり、各臓器に血液がいきわたりにくくなる於血(おけつ)の状態になる。
「月経の1週間前からしっかりと服用するタイプ」があるようです。
どのように服用した方がいいかは医師に相談して下さい。
ケース③ 男性の頭痛に桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
慢性の頭痛があり、検査したが器質的な異常は見られないと言われ悩んでおり受診。
緊張型頭痛と緊張型頭痛による肩こりやのぼせの症状があると診断された。
今回の処方は桂枝茯苓丸。
桂枝茯苓丸は一般的に「更年期障害(頭痛、めまい、のぼせ、肩こりなど)」で使われる。
於血を改善する代表的な薬である桂枝茯苓丸が選ばれた。
「虚弱体質でなく体力があるか」など!(弱っていると効果が感じられないため)
月経のある女性で貧血もある場合⇒四物湯(しもつとう)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
ストレスやイライラからくる場合⇒大柴胡湯(だいさいことう)、抑肝散(よくかんさん)
天候変化によるもの⇒五苓散(ごれいさん)
頭痛の要因や患者背景に応じて使い分けて処方されていることが多いようです。
ケース④ 急性ストレス障害の睡眠障害に四物湯と桂枝加芍薬湯
仕事でショックなことがあり、そのことが思い出され2・3日眠れない日が続いている。
急性ストレス障害による睡眠障害と診断され、四物湯(しもつとう)と桂枝加芍薬湯が処方。
生死に関わるような出来事を体験・目撃するといった強烈なショック体験や、強い恐怖感、無力感を覚えるような体験などを心的外傷(トラウマ)体験という。
トラウマが原因として生じるストレス障害のうち、症状が1か月未満の場合は「急性ストレス障害」、1ヶ月以上継続している場合は「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の可能性があるようです。
不眠状態が数ヶ月続く場合は、西洋薬であればベンゾジアゼピン系が出ることがあるが、この系統は依存性や退薬症状のリスクがあるので最近はあまり使われない。
専門医の間では「神田橋処方」と呼ばれ、よく使われています。
「桂枝加芍薬湯は、しぶり腹や腹部膨満感に対して処方」されます。
・十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)と桂枝加芍薬湯
・小建中湯(しょうけんちゅうとう)と桂枝加芍薬湯
・柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)と四物湯
・(桂枝加芍薬湯+大黄⇒)桂枝加芍薬大黄湯と四物湯
などの有効性も神田橋医師は報告されています。※いずれの処方も四物湯と桂枝加芍薬湯がベースとなっています!
だと思って薬剤師の方は服薬指導してあげてください!
Q3 おさえるべき副作用・飲み合わせは?
漢方は副作用が少なく安全とごかいされがちですが、漢方エキス製剤の種類や併用薬によっては、
重大な副作用が起こりえます。
①甘草(かんぞう)
約7割のエキス製剤に配合されている生薬です。
偽アルドステロン症と呼ばれる重大な副作用を起こすことがあります。
アルドステロンは副腎(ふくじん)から分泌され、体内に塩分と水をためこみ、カリウムの排泄を促して血圧を上昇させるホルモンです。
偽アルドステロン症というのは、血圧を上昇させるホルモン(アルドステロン)が増加していないにも関わらず、高血圧、むくみ、カリウム喪失(そうしつ)などの症状があらわれる病態のことです。
主な症状として、「手足の力が抜けたり弱くなったりする」、「血圧が上がる」などが知られています。
これに次いで、「筋肉痛」、「体のだるさ」、「手足のしびれ」、「こむら返り」、「麻痺」、「頭痛」、「顔や手足のむくみ」、「のどの渇き」、「食欲の低下」、「動悸」、「気分の悪さ」、「吐き気」、「嘔吐」などがあります。
症状が進むと、まれに「意識がなくなる」、「体を動かすと息苦しくなる」、「歩いたり立ったりできなくなる」、「赤褐色の尿が出る」、「尿がたくさん出たり、出にくくなったりする」、
「糖尿病が悪くなる」こともあります。
重篤副作用疾患別対応マニュアル「偽アルドステロン症」P6 厚生労働省のホームページより引用
②麻黄
主成分のエフェドリンなどにより、交感神経刺激作用がある。
薬剤師の方は、不眠傾向の患者に処方されている時は「目がさえることがあるかもしれない」
「胸がドキドキすることアがあれば相談を!」などの声掛けをしっかりと行い、
不安を軽減するように!
③地黄(じおう)
胃腸が弱い方に処方されると「下痢・食欲低下」が起こる可能性がるので、体質に合わせて指導してあげてください。
④黄芩(おうごん)・柴胡(さいこ)
間質性肺炎と肝機能異常などには注意してほしい。
肝機能以上は原因生薬を特定するのは難しいが、定期的な検査が必要である
⑤アレルギー物質と生薬
- シナモンアレルギー⇒桂皮(けいひ)含有製剤は注意
- 山芋アレルギー⇒山薬(さんやく)含有製剤は注意
ex)八味地黄丸、六味丸、牛車腎気丸、啓碑湯… - 小麦アレルギー⇒麦含有製剤は注意 ex)甘麦大棗湯
- アーモンドアレルギー⇒桃仁(とうにん)含有製剤は注意
- ごまアレルギー⇒胡麻仁含有製剤は注意 ex)消風散
- ゼラチンアレルギー⇒阿膠(あきょう)含有製剤は注意
ex)温経湯、芎帰膠艾湯、猪苓湯、四物湯、炙甘草湯… - 里芋アレルギー⇒半夏(はんげ)含有製剤は注意
- ヨモギアレルギー⇒艾葉(がいよう)含有製剤は注意 ex)芎帰膠艾湯
など生薬で上げたので漢方製剤で見たらまだたくさんあると思います。ご注意を!
⑥相互作用
漢方と西洋薬の組み合わせがダメなものもあります!
- 小柴胡湯+インターフェロン製剤⇒間質性肺炎…死亡例ありのため、併用禁忌!
- 甘草含有製剤+K排出利尿剤(サイアザイド系、ループ系)⇒低カリウム血症のリスク上昇!
- 麻黄+エフェドリンorキサンチン製剤⇒交感神経の過剰刺激のリスク!
- 附子(ぶし)製剤+強心薬⇒心臓への負担増のリスクあり!
- 大黄(だいおう)+下剤⇒下痢による脱水のリスクあり!≪添付文書に記載はないが処方頻度が高く注意が必要な組み合わせ≫
- α-グルコシダーゼ阻害薬(GI)+大建中湯
⇒大建中湯には膠飴という二類糖を含むため、α-GIによる未消化の糖質が増加し、腹部膨満感の悪化や腸閉塞症状を起こす恐れがある。
これらの組み合わせが出ている時は医師に確認するようにしてください。
もしくは要経過観察してあげてください。
Q4 特に注意が必要な患者は?
妊婦
現在発売されている漢方エキス製剤で禁忌はない。
ただ、注意が必要なものはいくつかあるが、その中でも大黄は注意をしてほしい。
強い瀉下作用があり、子宮収縮作用や骨盤内充血作用もあるので流産の原因になり得るからです。
体力があれば服用は問題ないようなので医師の判断では処方されることもあるようですので、飲んでいておなかが痛くなる時は早めに受診を!
漢方エキス製剤は先天異常や早産などの重大なリスクの報告はされていない。
ただ安産性の確立もされていないので、使用する際は2日分くらいの短期処方で様子を見ながら検討していくのがいいかと思います。
授乳中
漢方でも母乳に移行し、赤ちゃんにも作用してしまうものもあります。
大黄
アントラキノン誘導体はが母乳に移行し、乳児の下痢を引き起こす原因になることがある。
エフェドリンを含むので、乳児の興奮やほてりを起こす可能性もある。
麻黄
麻黄1gにエフェドリンが10mg含まれるため乳児への影響を考慮する必要がある。
また、麻黄含有製剤の重複やMAO阻害薬、甲状腺ホルモン製剤、カテコールアミン製剤、キサンチン系製剤との併用は注意を!
高齢者
生理機能が低下した高齢者が多いので用量は重複は留意したい。
副作用回避のため「一般的に高齢者は体重も軽く、通常成人の2/3の投与量で十分」と言われている。
高齢者に常用量で処方されている時は50kg以上の体重があるか確認した方がいい。
- 附子含有製剤⇒くちのしびれ、不整脈、血圧低下、呼吸障害があれば相談を!
- 甘草含有製剤⇒むくみ、高血圧、不整脈などの低カリウム血症の症状があれば相談を!
- 麻黄含有製剤⇒交感神経の過剰刺激
- 黄芩含有製剤⇒単剤でもたまに間質性肺炎を生じる。
インターフェロンとの併用・肝硬変の人でも間質性肺炎を生じやすい - 山梔子(さんしし)含有製剤⇒静脈硬化性大腸炎を生じることがある
透析・心不全患者
漢方エキス製剤は飲みにくいので、お湯に溶かしてから飲むなど水分を多く摂りがちなので、医師に飲み心地や薬を飲むときの水の量は伝えて続けていいのか確認を!
Q5 薬を飲むときのポイント
食前(食事開始の30分前)じゃなくても大丈夫?
「漢方の成分である配糖体が腸内細菌に加水分解されて吸収されるため空腹時がいい」とされているが食事による吸収の阻害があるというデータはないので食後だと効果が不十分ということはない。
中国の湯液(煎じ薬)や中成薬(生薬製剤)は食後投与のものが多い。
「傷寒雑病論」などの著名な個展を見ても服用タイミングを支持する処方は少ない。
1940年代に発売された漢方診療の書籍に「1日3回にわけ、食事の1時間前に温服する」と記載があったことが食前投与の始まりと言われている。
地黄など胃腸に負担がかかる生薬もあるので、胃腸障害がある人や胃腸が弱い人は食後の方がいいともいわれている。
食後服用と白湯に薄めて少しずつ服用するのが体の負担なく継続できるおすすめの飲み方です。
粉が飲みにくい、味が苦手な時
漢方エキス製剤は独特な苦みがあるため抵抗感を抱く人が多い。
粉がのみにくい人・胃腸が弱い人・義歯の隙間に入ってしまい悩んでいるには試してほしい。
口当たりが嫌な人は、コーヒーミルなどで30秒ほど引いて細かくし、水に混ぜる。
最初は浮いてくるが、根気よく混ぜると懸濁するのでガムシロップなどで甘みを足せば飲みやすくなる。
子供に飲ませるときは、1~2歳以降であればココアにむくまれる微量のカフェインも服用できるのでココアと混ぜて飲みのがオススメ。
・小青竜湯⇒ヨーグルト・アイス
・麻黄湯⇒リンゴジュース
・越婢加朮湯⇒クッキークリーム味のアイス
・甘麦大棗湯⇒アイス
と使い分けると飲みやすいみたいですよ!お試しください。
保存期間は?
製品のままであればメーカー記載の期限までは持つと思うが、基本処方されたものは処方期間内で飲み切るものなので残さないでほしい。
漢方エキス製剤は吸湿性が強いので、薬局で再分包したものは長期間放置すると変色・変質してしまうことがある。
明確な期日はないが、変色・変質したら破棄を。
空気をしっかり抜いたチャックに2重で冷蔵庫に保管していただく長持ちはするみたいです。
効果はいつ感じられるの?
目安としては、飲み始めてから2週間はかかる。
もちろん個人差がある。
子供だと症状の変化が激しいので、すぐよくなってしまうこともあるため少ない日数で処方されることもある。
効果発現に時間がかかる漢方だと3ヶ月くらい様子を見ることもあるので一概には言えません。
(おまけ) この症状・疾患にこの漢方がおすすめ!
- 小児の繰り返す中耳炎⇒十全大補湯
- ざ瘡(ニキビ)⇒十味敗毒湯、荊芥連翹湯
- 更年期障害⇒当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遙散など
- 胃食道逆流症や機能性ディスペプシア⇒六君子湯
- 癌の化学療法による末梢神経障害⇒牛車腎気丸
- 頭痛⇒釣藤散
- 過活動膀胱・夜間頻尿⇒牛車腎気丸
- 月経前症候群⇒加味逍遙散
- うつ⇒加味帰脾湯
- 前立腺肥大症⇒八味地黄丸
- 感冒後の咳嗽⇒麦門冬湯
- 不眠・イライラ⇒抑肝散
漢方エキス製剤の注意点
・含有量の違い例でいうと、葛根湯(かっこんとう)は、クラシエの細粒は葛根を他社の倍・8.0g/日含有している。
・賦形剤も製薬会社で異なる。乳糖やトウモロコシデンプンなど様々。
・適応違い例でいうと、加味逍遙散の適応は、大半の商品は女性に限定した適応であるが、コタローは男性にも適応がある。組成や含有量、適応の違いが人によっては体調変化が起きたりすることもあるので注意を!
女性の薬ではない使い方もあるので男女関係なくしっかりと服用して様子を見てください!
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